2024年2月29日

日本触媒
省エネ、高効率海水淡水化を達成

基幹部材「DS」を共同で開発

日本触媒(野田和宏社長)は、Treⅴi Systems(本社・米国カリフォルニア州、John WebleyCEO)と次世代の海水淡水化/水処理システムである正浸透(FO)システムの基幹部材である浸透圧発生剤(Draw Solution、以下、DS)を共同で開発した。

2010年に設立されたTreⅴi Systemsは海水淡水化や、海水濃縮を持続可能かつ効率的に行うことができるFO技術のリーディングカンパニー。イノベーションと環境問題の解決を目指し、従来技術では処理が困難な廃水をきれいな水や資源に変えるためのFOおよび加圧FOシステムの開発を進め、その可能性を広げ続けている。その一環として、米国エネルギー省から400万㌦の資金援助を受けてハワイ島において共同開発したDSを用いて海水から淡水を造るプロジェクトを22年6月より開始し、全データの取得を23年9月に完了させた。

近年、世界各地で水不足が深刻化しており、農業用水や飲料水向けの海水淡水化や工場の水処理に逆浸透(RO)システムが広く用いられている。ROシステムは、海水や排水に高圧をかけ、RO膜という半透膜で塩分や不純物をろ過する仕組みで、高品質な水が得られる技術として世界的に普及しているものの、高圧をかけるために大量の電力を必要とすることが問題となっている。

この問題を解決する方法としてFOシステムが注目されている。FOシステムは、塩分など水に溶けている成分の濃度が異なる水溶液が半透膜を隔てて接するとき、2つの水溶液の濃度が均一になるように、濃度が低い水溶液から高い水溶液へ自然に水が移動する「浸透」という現象を利用している。FOシステムによる海水淡水化では、海水と、海水より高濃度のDS溶液を、FO膜という半透膜を隔てて接触させることにより浸透圧が発生し、海水からDS溶液に水のみが移動する。これにより、大量の水を含んだDS溶液(DSと水が均一に混ざり合った水溶液)が得られるが、日本触媒とTreⅴi Systemsが共同開発したDSは、加熱することで水と分離する性質を持つため、水だけを取り出すことができる。

Treⅴi Systemsが開発したFOシステムは、加熱により水と分離するDSを用いることと、分離後のDSをシステム内で再利用することなどが特長。16年に中東(UAE)で海水から50立方㍍/日の淡水を造る実証試験が行われ、電力消費量をROシステムの3分の1程度に低減できることが実証されている。

しかし、FOシステムの本格的な普及にはさらなる造水能力の向上が必要で、その実現には基幹部材であるDSの高性能化が重要なカギとなる。日本触媒はTreⅴi Systemsと共同でDSの高性能化に取り組み、従来品よりも造水能力を30%向上可能なDSの開発に成功した。

今回、Treⅴi Systemsがハワイ島で実施した500立方㍍/日の実証試験では本DSが使用された。実証試験の結果、①海水中の65%以上の水を淡水として取得できること②電力消費量はROシステムと比較して3分の1となること③設備投資はROシステムとほぼ同等になることが実証された。Treⅴi Systemsはハワイ島の同じサイトで、さらにスケールアップさせた6000立方㍍/日の海水淡水化FOプラントの稼働も計画。加えてこのプラントでは、濃縮海水をモデル液とした廃液排出ゼロの実証試験や、海水を濃縮してミネラル分を回収する実証試験も予定されている。

FOシステムは中東のような水需要の大きい地域での海水淡水化や、廃液排出ゼロのための濃縮技術としても導入が検討されている。日本触媒では今後のFOシステムの拡大を見据え、DSのさらなる性能向上、高機能化に努めるとともに、FOシステムをはじめとした技術革新を推進し、水分野におけるさまざまな社会課題の解決に取り組んでいく。