ダイセル
「自律型生産システム」開発
ダイセル式生産革新手法 AIで進化
新たな付加価値創出
ダイセル(小河義美社長)は、化学などのプロセス型のモノづくり現場で取得したデータから日々学習を重ねた人工知能(AI)を搭載し、現場作業者を支援する「自律型生産システム」を開発した。同社が2000年に完成させた〝ダイセル式生産革新手法〟で構築した〝知的統合生産システム〟を、2種類のアプリケーションによって進化させたもので、アプリケーションには東京大学と共同で開発したAIを搭載している。同システムにより、劇的なコストダウンならびにノウハウ抽出のスピードアップに貢献する。
このシステムに搭載されたAIは、過去に蓄積してきた運転ノウハウを活用するだけでなく、日々の運転の中からも新たなノウハウを自動で抽出。自律型生産システムによって生産の最適解が求められ、製造コストの劇的な削減につなげる。同社では、同社の国内全拠点に導入が完了した場合最大で年間100億円程度のコストダウンが可能と試算。AIの活用によって従来のダイセル式生産革新手法の心臓部であったノウハウ顕在化にかかる労力が劇的に低減され、導入の難易度も改善される。
今回の自律型生産システムには最適運転条件導出システム(PCM)、高度予知予測システム(APS)によって構成される2つのアプリケーションを搭載。PCMは、安全・品質・生産量・コストの指標をリアルタイムに予測し、個々の指標を最大化するための最適な運転条件を導き出す。同社の実証テストでは、設定した品質指標の90%以上の予測精度を発揮した。
APSは、PCMで計画した運転条件に沿って生産を行う状況下において、機器の故障や環境におけるさまざまな変化において、計画からのズレを予兆。そのズレを抑えるため、運転条件を修正することで、計画通りの運転を行う。同社の実証テストでは変調原因を100%予測し、誤ったタイミングでの検知は0・03%に抑えられた。
自律型生産システムの導入により、コストダウン効果としてPCMによる生産性の向上と、APSによる安全・品質・コストの安定化は、設備トラブルの予防保全によって生じる過剰な修繕費を節約。効率的な生産による在庫の削減などに寄与し、生産コストの大幅な削減につながる。また業務量削減などにとどまらず、生産現場の働き方を根本から変える”新たな働き方改革”を進め、付加価値の創出も目指す。
従来のダイセル式生産革新手法では、熟練者からのヒアリングによるノウハウ抽出や、運用開始後のメンテナンス・アップデート(ノウハウの追加)に大きな労力を必要としており、これらがシステム導入の大きな壁となっていた。自律型生産システムはAIが過去の運転を分析し、ノウハウを抽出してシステム設計を行い、システムの運用開始後も、日々の運転からノウハウを学習していく。
同社では既に、自律型生産システムの日本国内の生産拠点への展開を開始。従来から行ってきた定量的な数値データに基づいた通常の運転に加え、音声や画像などの定性的なデータをも活用することで、プラント運転の立ち上げ、停止など、非定常時の運転標準化を進める研究にも着手している。
自律型生産システムは、一つの企業における単一製品の生産の最適化だけでなく、関連する前後の企業・工程にまたがって応用でき、企業の枠を超えたサプライチェーン全体の最適化を実現する。現在、生産現場にAIを導入する一般的な取り組みは、ほとんどが個々の計器やセンサーなどの故障検知や、単一製品の品質予測など、効率化の手段の一つとしてのみ効果を発揮する。しかし、自律型生産システムは、モノづくりの一連の流れを標準化したダイセル式生産革新手法を用いて開発しており、広範囲で生産の最適化が可能。
同社は将来的に企業の枠を超えて、原料から最終製品に至るまでのサプライチェーン全体の最適化を目指す。究極的には、一つのサプライチェーンを仮想的な会社ととらえ、製品の調達、生産、販売といった機能や設備を一体で管理・経営する「バーチャルカンパニー」の考え方に基づいた効率的・即応的なコントロール体制の確立を目指す。