2021年4月5日

ゴム技術フォーラム
第33回公開フォーラムを開催

ゴム産業将来展望
新調査委員会初の報告の場

ゴム技術フォーラム(平田靖代表・大塚化学研究開発本部副本部長兼総合研究所長)は3月19日、ウェブを通じて「第33回公開フォーラム」をオンライン開催した。ゴム技術フォーラムは、ゴム産業の将来展望を目指した技術開発のあるべき姿を追求する目的から、テーマを設定して調査研究を行い、年1回のスケジュールにおいて公開フォーラムのスタイルによって講演、報告、討論などを実施。講演では、異業種を含めた多分野から講師を招き、学術的な知識の深耕化に取り組んでいる。

最近になって、環境問題を背景にゴムの最大需要先である自動車も100年に一度という大きな変革期を迎えており、ゴム技術フォーラムでは、そういった時勢に合わせ「特殊ゴム・エラストマーの未来展開」調査委員会(調査委員長・竹村泰彦日本ゴム協会名誉会員)を新たに発足。今回は、その最初の調査報告の場であり、基調講演においては、今後の化学産業のあるべき姿と未来の自動車に関するテーマで二人の講師による貴重な情報が紹介された。

フォーラムは藤井信彦運営委員(デンカ)の司会進行により、平田代表のあいさつで開幕。最初の基調講演として、国際大学大学院・国際経営学研究科(東京大学・一橋大学名誉教授)の橘川武郎教授が講師となって「我国の産業の現状とあるべき姿」をテーマに選んで論説を披露した。講師はまず、日本の産業の歴史の特徴を三つの視点から言及。欧米以外において、日本がなぜ最初に工業化を成し得たかについては、ブレークスルーイノベーション(既存のカラを破った技術革新)、そして1910~80年代の時代に長期高成長した理由として、インクリメンタルイノベーション(小さな改善の繰り返しによる技術革新)という2種類のイノベーションを取り上げた。しかし両方の革新ベクトルは矛盾的でもあり、挟撃社会(社会的発展の板ばさみ)を生み出したことで90年代以降に経済の長期低迷へと足元を踏み外していった。「挟(きょう)撃社会の問題解決には、理論的アプローチだけではなく歴史的アプローチも必要」(橘川教授)。それから講師は、応用経営史としての手順を掲げてから、問題解決への道筋を、可能な限り具体的な形で提示した。

その一つが、日本的経営を、〝守り〟の武器から、本来の〝攻め〟の武器に変えることであり、株主利害と従業員利害との前向きの統合という方法論を抽出。成果主義という労務コスト節約は、投資資金捻出の手段であり、投資プランを確実に立ててから、成果主義を実施し、協調的な労使関係を基盤にすることで、従業員利益の最大化を目指す経営が重要と指摘した。

基調講演第二部は、トヨタ自動車の先進技術開発カンパニー・モビリティ材料技術部から永井隆之部長を講師に招き「自動車の将来とゴムをはじめとする高分子材料への期待」をテーマにモビリティの進化において高分子材料の果たす役割の大きさについて説明。自動車業界を取り巻いている状況として環境問題に対する観点の重要性を強調しながら、自動車メーカーが取り組んでいる課題について紹介した。材料との関わりについては、HEV、EV、FCVなど電動化への寄与、リサイクル促進やバイオ剤における素材の低LCCO2に貢献するリサイクル促進、バイオ材、軽量化に向けた技術開発など、目標として同じ青写真を想定しながら、コンセプトごとに研究開発が進む現在の自動車メーカーが取り組む技術革新に向けての努力の数々を訴えた。その革新が求められる今後のモビリティの背景について、CASEを取り上げ、トヨタが取り組んでいる〝新車CO2ゼロチャレンジ〟において、車両電動化のマイルストーンを紹介、2030年の目標として電動車の販売台数550万台以上、FC+FCV100万台以上という定量目標を示した。続けて〝ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ〟においては、材料・部品・ものづくりを含めたトータルCO2排出ゼロにチャレンジし続けるカーメーカーとしての姿勢について紹介。材料にもこだわった環境配慮設計の取り組みを、今後さらに充実・促進させることで実現に向けて現実との距離を縮めている状況について説明した。電動車といってもこれからはHV、PHV、EV、FCVのいずれでも用途のすみ分けが進むとともに、ますます多様化が進展。「トヨタではさまざまな社会ニーズに対応する電動化技術の開発を進めているこが、さらに高度化するニーズにこたえるためには革新的材料が不可欠なものとなることから、新技術・新材料に対する期待度はますます高まっている」と今後の展開に向けての期待の気持ちを表した。

その後「特殊ゴム・エラストマーの未来展開」調査委員会による報告が行われ、竹村委員長の総合報告に続いて各ワーキンググループ(WG)による各論報告が実施された。全体的に踏み込んだ調査と推論で、材料面の専門技術の在り方と今後の活動内容についての方向性を示唆。新たな可能性にも触れ、希望に満ちた今後の展開に向け、ゴム技術フォーラムを活動の基盤としながら、引き続き研究開発の深耕を推し進める。特に今回、われわれ社会生活の中で、大きな役割を果たしているモビリティ材料についての報告を行った、WG5の発表が興味深かった。WG5では「熱可塑性エラストマー(TPE)全般の材料、加工、用途について調査し、社会ニーズとの整合性を踏まえてTPE技術の未来提言を行った。経産省においては日本でも30年には全体の20~30%をEV車に置き換える目標が打ち出されており今回の調査対象ゴムは、現状においては、自動車用途がメインと考えられている傾向があり、WG5の将来の方向性について、引き続き調査を進める」としている。

各調査委員会WGの報告内容は次の通り(報告内容の詳細については改めて紹介する)。

▽WG1(リーダー=神戸祐哉氏/デンカ)「NBR&NV&NE、HNBR、ACM&AEM」
▽WG2(リーダー=石川哲也氏/ブリヂストン)「CR、CSM、CM、CO、FKM」
▽WG3(リーダー=逸見祐介氏/三ツ星ベルト)「EPDM&EPM、ノルボルネンゴム、エポキシ化NR、U」
▽WG4(リーダー=前田哲生氏/日本ケミコン)「Q、多硫化ゴム(T)、フォスファゼンゴム(PZ)」
▽WG5(リーダー=篠塚翼氏/住友理工)「(全てのTPE)」