2020年10月5日

【トップインタビュー2020】住友理工
清水和志社長

新製品の売り上げを全体の2割へ

今年6月に住友理工のトップに就任してから、今期の第2四半期の業績において、反転攻勢に向けての土台固めと体制づくりに懸命に取り組んできた清水和志社長。新型コロナウイルスによる逆境の経済情勢の中で責任ある立場を任され、厳しい試練に立たされた情勢からの、攻めの体制に向けた施策の実行にも果敢に挑戦してきた。苦しい逆境に動じることなく、世界市場への一段と奥深い領域に向けて荒波を突き進む清水社長に話を聞いた。

【今期(2021年3月期)の現状と通期の見通しについて】
世界で新型コロナウイルスが猛威を振るう中、主要顧客である自動車メーカーの動向に最も焦点を当てながら、これまで事業活動にまい進してきた。第1四半期がスタートした時点では、従来の経験則に基づいた計画を立案して生産・販売の維持に努めてきたものの、新型コロナウイルスによる影響は甚大で、第1四半期の決算は大幅な減収減益に見舞われた。

しかしながら、5月を底として第2四半期に入ってからは徐々に回復基調に乗っており、上期は引き続き売上高の確保と収益性の改善に努めていきたい。下期以降についても、顧客日系カーメーカーが大いに奮闘を続けていることから、当社の販売も前年並みの水準を維持できるものとみている。ただ、第1四半期が振るわなかった影響は色濃く残っており、通期の業績予想については、残念ながら売上高、利益面ともに前年実績を割り込むと見通している。

【今後の施策について】
今年6月の社長就任時から掲げてきたキーワードの一つである「筋肉質な経営体質への変革」をさらに強力に推し進めていく必要がある。当社は2013年より海外メーカーの買収によってグローバルで拠点を拡充してきたが、各拠点の重複する機能を整理するなど、今年度中にはさらなる効率化を図っていきたい。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界の自動車生産台数は伸び悩んでいるが、これを、需要に見合った生産体制を構築するチャンスと前向きにとらえ、製造拠点の見直しと再編に積極的に取り組んでいく。主力の自動車用防振ゴムにおいては、この5年間でフランスからルーマニアへの生産移管がほぼ完了したことで、鉄道車両用防振ゴムなどを製造販売するフランスの子会社2社の売却と、アルゼンチンの自動車用ホース生産拠点の解散・清算を決定した。

一方、ベトナムでは2カ所目となる自動車用ホース製造販売の拠点を設立する。世界の自動車生産が落ち込む中でも、中国では既に販売数量が回復しつつある。同国をはじめとするアジア地域でのおう盛な需要に高品質な製品で迅速にこたえていくためにも、代替生産が可能な拠点については集約を進め、(ベトナム新工場のように)伸ばしていくべきところにはさらに力を入れていく。新拠点ではベトナム国外、主に日本や米州向けのゴムホース生産を行う。また全体のコスト削減に向けては、あらゆる〝ムダ取り〟にさらに努めていく。いかに間接費、固定費を圧縮していくかは大きな課題であるが、損益分岐点を下げていくことで、売り上げが減少しても黒字を確保できる安定した収益構造の確立を目指す。

【今後の成長に期待をかけている製品は】
主力の自動車用防振ゴムやホース、産業用ホースなどは、まだまだ伸びしろがあると見込んでいる。民需が落ちるときは政府がインフラ投資の拡大で後押しをするので、産業用ホースをはじめとするインフラ関連は中国の需要にけん引されて堅調だ。また、自動車向けについても、環境対応ホースの投入によって数量的に前年を上回る勢いを見せている。次世代自動車の普及が進んでも、〝走る・曲がる・止まる〟という基本的な機能は同じなので、防振ゴムやホース製品に対する需要も減少することはないだろう。むしろ自動運転をはじめとする技術の進ちょくに伴い、より安定した乗り心地へのニーズが高まっていくと考えており、当社としては、さらに高機能な防振ゴムで快適な車内空間の提供に貢献していきたい。
 ほかにも〝CASE〟対応の新製品では、電池周りの部材、センサー関連の製品などを立ち上げている。ステアリングに搭載されるセンサー類は、顧客カーメーカーへの搭載が決定した。

【非自動車分野の展開について】
今年4月、「自動車新商品開発センター」と「新事業開発センター」などを統合した。これは、自動車向けの開発も非自動車向け開発も、用いる基盤技術は共通しているという考えからだ。その中で生まれてきた新しい製品の一例を挙げると、心拍や呼吸などのバイタルデータを計測できる「体動センサ」がある。大阪大学の研究開発チームが手掛けた、新型コロナウイルスの重症患者が陥る呼吸不全の予兆察知システムに採用されたが、今後もユーザーと一緒になって、さまざまな用途開発を進めていきたい。

バイオ・メディカル領域以外では、熱マネジメント用の素材として薄膜断熱材を開発した。シリカエアロゲルによる塗布型の断熱材で、車載用はもちろん、非自動車分野、例えば住宅や家電などで使っても高い効果を発揮するのではないかと考えている。さらに、高耐熱(400℃レベル)・不燃性のタイプも開発しており、ラインアップを広げながら、熱マネジメント領域に重点的に注力していきたい。

こうした新製品群の拡充を図りながら、将来的には一般産業用品の売上高を全体の2割程度まで高めていきたいと考えている。

【新たな取り組みについて】
2018年より、米国、ブラジル、中国など主だった拠点にチームを派遣し、世界同一品質と生産性の改善に向けた技術支援を遂行してきた。ところが、コロナ禍によって現地に赴くことができなくなり、現在はほかの対応を模索している。リモートによる支援も検討中で、現場の様子を映像でモニターしながらチェックすれば、対面での支援に比べれば精度は落ちるだろうが、ある程度の効果が期待できそうだ。

社内のコミュニケーションの一環としては「社長ブログ」を開設した。さまざまな思いを書いて当社ホームページでも公開している。きたんのない意見も多数寄せられるので、開始してとても良かった。また、プライベートな付き合いでは、幹部だけではなく若い従業員と少人数で懇親を図り、既に数百名の従業員と交流を深めてきた。そのような場でも、熱意あふれる人財が率直に意見を交換してくれるので改めて頼もしく感じている。コロナ禍もあって、仕事にかかわる不安を抱いている従業員は多くいる。そういった場を通して、少しでも日々の業務に対しての疑問や不安を解消していければと考えている。

【今後の展望を】
これまで特に自動車分野においては、今期は〝我慢の時〟と腹をくくって臨んできた。しかしながら、その時期はもう過ぎ去ったととらえている。下期以降は、中国を筆頭に上向きつつある需要を、いかに着実に取り込んでいくかに全力を傾けていきたい。