三井化学
AIで化学プラント運転変更操作を効率化
時間短縮や原料などの削減に期待
三井化学(橋本修社長)、日本電気(新野隆社長兼CEO、以下、NEC)、産業技術総合研究所(石村和彦理事長、以下、産総研)、オメガシミュレーション(浦直樹社長)は、化学プラントなどの大規模インフラの運転を支援する論理思考AIとシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせた運転支援システムを構築し、運転員の手動操作と比較して40%効率的な運転ができることを三井化学のプラントで実証した。本技術により、化学プラント運転の効率化、例えば、運転安定化までの時間短縮による原料やエネルギーの削減が可能になることが期待される。
近年、化学プラントでは顧客の多様なニーズに合わせた生産が行われている。生産量や生産品を変更する運転変更操作は、安全を見ながら操作する必要があるため、運転員が手動あるいはベテラン運転員の操作をルールベース化し、手順通りに再現したシーケンス制御を使用して行われている。プラント状態は緩やかに変化するため、最適となるまでの運転変更操作に数時間から半日程度を要することがある。運転変更の試行を繰り返すと原料やエネルギーが無駄になるため、効率化が望まれていた。このような課題に対し、強化学習を代表としたAI技術の研究が進んでいるものの、プラントのような大規模・複雑な対象には対応できなかった。
NECと産総研は、プラント等の大規模・複雑なインフラの効率的な操作とその根拠を合わせて提示できるAI技術「論理思考AI」を開発してきた。論理思考AIは、強化学習を用いて人が従来行ってこなかった操作もシミュレータ上で試行することにより、運転員が複数回の試行錯誤をしながら行っていた運転変更操作を最適化できる。この最適化した操作を運転員が確認し、操作することにより、運転変更の時間短縮が可能になる。今回、本技術とオメガシミュレーションのミラープラント(オンラインダイナミックシミュレータ)を連携させ、三井化学の訓練用実プラントに適用。その結果、生産量を変更する運転変更操作において、運転員の手動操作と比較して操作時間を40%短縮できることを確認した。
本技術では、プラント状態に合わせて無駄のない最適操作を生成できるため、運転変更にかかる時間が短縮され、原料や使用スチーム量の削減が可能となる。本技術は、最適操作を学習する強化学習技術を独自に拡張したもので、シミュレーションで試行錯誤すべき手順の対象を、マニュアルや運転規約などに記載された情報から論理推論を用いて大幅に絞り込むことができるため、化学プラントのように操作のバリエーションが多く、複雑な実装置への強化学習技術の適用・実証を世界で初めて実現可能とした。
化学プラントのような重要施設では、操作の可否を運転員が最終判断する必要がある。従来の強化学習では操作量しか出力されないため、その操作を実施してよいかどうかを運転員が判断することは困難であった。本技術では、マニュアルにひもづいた操作の根拠と想定されるシミュレーション結果を運転員に提示することで、運転員が操作の可否を判断することができる。
4者は今回の実証実験で得られた成果をさらに発展させ、AIとシミュレータを用いた運転支援技術を開発することで化学プラントの運用効率化に貢献していく。