JSR
エラストマー事業譲渡を発表
ENEOSと契約
企業価値1150億円で合意
JSR(エリック・ジョンソンCEO)は5月11日、合成ゴムの製造・販売を含む同社のエラストマー事業を会社分割により子会社化し、その株式をENEOS(大田勝幸社長)に譲渡する契約を締結したことを発表した。エラストマー事業は譲渡後、ENEOSが100%所有する事業として運営されることとなる。本件の買収金額は第三者評価に基づく企業価値1150億円で合意している。本件事業譲渡については、JSRの株主総会における承認と関連当局からの認可を条件として、来年4月1日に完了する予定。
近年、事業を取り巻く環境が複雑化し不透明感が増す中、あらゆる環境変化に対応できるよう同社では新たな経営方針として強じんなインフラ、ビジネスポートフォリオを持つべく事業構造・経営体制の転換に取り組んでいる。その中で同社の強みである技術革新力をより発揮できるデジタルソリューションの中でも半導体事業、そしてライフサイエンス事業を中長期的な成長事業として位置付けている。エラストマー事業については、合成ゴムの国内ナンバーワン企業として、SSBR(溶液重合ブタジエン・スチレンゴム)をはじめとする高付加価値合成ゴムの分野を中心に、高い技術力を持ち、国際的な信頼を獲得しているが、グローバル競争も激化するなど、事業環境は厳しさを増している状況となっている。このような環境下、戦略的アプローチの見直しを行った結果、エラストマー事業が今後も成長し続けるためには、事業体制の抜本的な変革が必要であるとの結論に至った。
会見でジョンソンCEOは「エラストマー事業というのは弊社の祖業のコアとなるものである。決して短期的な利益を追求して下された決定ではない。むしろすべてのステークホルダーにとって長期的に見たときに最善の可能な選択肢である」と、今回の譲渡について述べた。
ENEOSを譲渡先として選択した理由については「ENEOSは素材力で幅広い分野へ事業展開している業界のリーダーであることならびにENEOS側でも戦略的な事業の見直しを行っており、その一環としてより高機能材料の分野においてビジネスを拡大していくという考えを持っている。そして何よりもENEOSは弊社のエラストマー事業の開発力ならびに製造能力を高く評価してくれている。当社にとっては最善の選択、譲渡先であると確信しており、楽しみにしている。エラストマー事業にとっては非常に明るい未来が期待できるということが言える」(ジョンソンCEO)と述べた。
2021年3月期のエラストマー事業の売上高は1500億円弱、コア営業損失を計上しており、110億円強となっているが、今期は市況の改善に加え、エラストマー事業で遂行されている事業構造改革の効果があるとし、黒字化する見込みとしている。本事業に従事する従業員数は3000人強で、全世界に5カ所(日本・四日市、千葉、鹿島、海外・タイとハンガリー)製造拠点を有している。
今回会社分割の対象となるのが、四日市工場のエラストマーに直接かかわる部門、そして間接部門の一部。千葉工場はデジタルソリューション事業を除く大半。鹿島工場についてはすべての資産、事業が対象となる。加えて「ABSを除いたエマルジョン事業(PCL、道路用、リチウムイオンバッテリーのバインダーを含む)もこの分割の対象となる」(川橋信夫社長兼COO)。国内のエラストマー関連グループ企業ではEMIXグループ、JTRグループ、ジョイントベンチャーが設立しているJKEならびに日本ブチル。海外は韓国、インド、アメリカ、ハンガリー、上海。
なお、エラストミックスおよびJSRトレーディングを含む国内外のエラストマー事業に関連する子会社、関連会社の株式等も本吸収分割の範囲に含まれている。
新会社の概要は次の通り。
▽名称=日本合成ゴム分割準備株式会社
▽本社所在地=東京都港区東新橋1―9―2
▽代表者=代表取締役社長・平野勇人氏(JSR常務執行役員兼務)
▽主な事業内容=エラストマー事業
▽資本金=100万円
▽設立年月日=21年5月12日
▽持株比率=JSR100%(22年4月をめどに、ENEOSが全株式を取得予定)