三洋化成工業
長瀬産業と「匂いセンサー」事業化
AI応用の人工嗅覚で匂い識別
都鶴酒造と日本酒造りに活用
三洋化成工業(樋口章憲社長)ならびに長瀬産業(朝倉研二社長)は、AI技術を応用した人工嗅覚で匂いを識別する「匂いセンサー」について共同で事業化を検討することで合意した。匂いの検知材料に先端AI技術を融合し、特定の匂いをデジタルで識別、定量化するデジタル嗅覚技術は医療分野、食品・飲料などの生活関連分野での応用への期待度が上昇。市場規模は2017年で約3200億㌦規模にとどまっていたが、26年までに3兆1200億㌦までに成長すると予測されている。
ヒトの嗅覚は、鼻の中の嗅覚受容体がそれぞれ異なる匂い分子を検知し、そのシグナルを脳が認識することで匂いを嗅ぎ分けていると言われている。今回の事業で検討されている匂いセンサーは、人間の嗅覚細胞に相当する物質であるプローブが香り分子を吸着することによる電気抵抗の変化で匂いを検知する方式を採用、機械学習を通じてAIがさまざまな匂いの香り分子を組み合わせることでパターンを検知する。界面制御技術を織り込んだ樹脂材料から構成されているのが特長で、その組み合わせによって複雑な香り分子を識別することが可能になると考えられている。
事業化にあたり、三洋化成工業は界面活性剤および機能性高分子に関する技術と知見を生かし、独自の組成設計に基づいた樹脂材料により、多様な匂いの識別を可能にする高精度なプローブの組み合わせの提案を行う。長瀬産業はプローブから得られたデータ処理を含むセンサーシステムの上位設計と、顧客ニーズに沿った分析結果を提供する新規DXビジネスの構築を目指す。
匂いを数値として可視化させることで、さまざまな分野で活躍するソリューションの提供を目指しており、匂いセンサーの事業化に向けては、まずは日本酒の醸造工程における品質管理と、香り成分の管理・計測や分析を通じた新商品開発への活用を目指す。
これまで醸造工程は職人の感覚で行われていたが、匂いセンサーを日本酒の醸造工程に活用することで、安定した品質管理や製造工程の省力化につなげていく。三洋化成工業では京都伏見で江戸時代から続き、昔ながらの少量高品質なこだわりの酒造りを行っている都鶴酒造(本社・京都市伏見区、内田浩司社長)とともに、AI技術を応用した匂いセンサーを活用した新しい日本酒造りを目指して共同研究を開始。得られたデータはプローブの機能付与、匂いセンサーの改良開発に反映し、匂いセンサーの早期実用化だけでなく、香りの観点によるマーケティングにより、新商品開発にもつなげる。
今回の共同研究では、匂いセンサーを活用した日本酒造りの課題を解決し、京都の歴史ある地域産業の発展にも寄与するものと期待されている。
今後は食品、医療、香粧品や工場での環境対応などといったさまざまな市場においてのマーケティングを推進し、長瀬産業が国内外に構築している顧客ネットワークを活用して幅広い分野に展開していく。