医学生物学研究所
自動測定装置用キットの開発に成功
新型コロナに対する中和抗体を迅速に検査
JSR(エリック・ジョンソンCEO)のライフサイエンス事業のグループ企業である医学生物学研究所(山田公政社長)は、慶應義塾大学医学部との共同研究により、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)に対する中和抗体を自動測定装置で測定するキットの開発に成功した。
新開発のキットはLSIメディエンス社(渡部晴夫社長)が製造する自動臨床検査装置「STACIA」に搭載することが可能で、少数検体から多数検体まで幅広く測定できるようになる。これにより、個々の患者の中和抗体の評価やワクチン接種後の抗体価の推移、最適なワクチン接種間隔を調べる研究など、幅広く有用性を発揮すると考えられている。研究用試薬として9月ごろの製品化に向け、現在準備が進められている。
STACIAはLSIメディエンス社製の国産品で、このキットを活用することによって1時間当たり最大270テストの測定を行うことができることから、サンプリングから結果が得られるまで、19分以内と迅速に測定を実施することが可能となる。この検査方法はウイルスを含まないため、BSL1レベルの通常の実験室で使用可能で安全性が非常に高い上、新型コロナウイルスを用いた中和試験の結果と高い相関がもたらされる。
新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の感染者はワクチンが普及し始めた現在においても増加し続けている。そうした状況に対して、世界中で多くの研究が行われ、ウイルスに感染する仕組みが少しずつ判明。SARS―CoV―2は、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質がヒトの細胞膜上のACE2タンパク質と結合する作用をきっかけに、細胞への侵入を開始することが既に明らかになっている。この結合を阻害することで、ウイルスの侵入を防ぐことができると考えられており、そのような作用のある物質は、治療薬候補として世界中で探索されている。
一般的にウイルスに感染した患者は体内の免疫機構が働き、抗体と呼ばれる防御因子を作成。抗体はウイルスのいろいろな場所に結合することで病原体の活動を阻害し、排除する方向に働く。SARS―CoV―2感染後も患者の体内で抗体が作られることが知られており、通常そのような抗体を測定するためにはウイルスの一部を作製、そこに患者の血液(血清)を反応させることで、血清中にウイルスに結合できる抗体があるかを判定する。ただし、抗体はウイルスのさまざまな部分に対して作られるため、ウイルスのどの部分に結合できる抗体なのかによって、作用も異なる。
SARS―CoV―2のスパイクタンパク質に結合し、ヒトのACE2との結合を阻害する作用を持つ抗体は中和抗体と呼ばれ、一般的な抗体とは異なる。中和抗体は感染防御に直接的にかかわると考えられており、この量が多いと感染防御能が高いとみなされる。中和抗体の検査は、ウイルスそのものの有無を検出するPCR検査や抗原検査とは異なったものとなっている。
本測定試薬はCLEIAを原理としており、SARS―CoV―2が細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパク質のうち、特に重要な受容体結合部位(RBD)を作製して磁性粒子に結合、それに対して患者の血清と酵素標識したACE2を順に反応させ、続いて発光基質を添加し発光量を自動測定する。中和抗体が存在すると、その量に応じてRBDとACE2の結合が阻害され、発光量が少なくなる。そのため、本試薬によって患者の血清中に存在する中和抗体がRBDとACE2の結合を、どの程度阻害するのか数値化することが可能となった。