【トップインタビュー2021】東拓工業
太田九州夫社長
時代とともに進化遂げる
「サスティナブル」を強く意識
今年の4月1日、東拓工業の新しいトップに就任した太田九州夫社長。長瀬産業の出身であり、東拓工業には過去、社外取締役として経営の一端に携わってきた。両社の事情に精通した人物であり、その観察眼によって企業としての改善点などを断定。部分的な見直しから、全体的な体制の調和を広げることで企業としての利得を高める。環境面に対する関心も高く、特にクリーンエネルギーに対する取り組みには意欲的。時代とともに進化を遂げる企業として、技術開発や人材育成と同様に、環境への企業責任の重要性を重視している。強い信念の下、東拓工業の経営のかじ取りを行う太田社長に話を聞いた。
【社長の立場で見た東拓工業の印象は】
長瀬産業では、さまざまな事業でいくつものビジネスの進め方を経験してきた。かねてより、東拓工業の非常勤取締役ではあったが、この度、社長という立場になり東拓工業の企業の特質を深く知ることとなった。トップとして、改めて企業像を俯瞰すると、強い財務体質を備えた立派な会社だ、ということを再認識した。長い歴史からくる業界でのポジションもさることながら、社内を見ると「モノづくり」にこだわる生産や技術力の高さ、さまざまなノウハウの蓄積、営業も含めた豊富な人材と、今後の取り組み方次第で高い将来性があると感じており、非常に期待している。
【これからの展開とさらなる飛躍に向けては】
豊田前社長(現取締役会長)の方針を踏襲し、経営を進めていく。ただし、その方向性に修正の必要を感じた場合は、思い切った軌道修正を図ることもある。豊田会長には、業界に対する活動や営業面を中心に担当してもらい、自分は社内ごとに軸足を置く。当社の強みを支える要素の一つとして人材の優秀さがある。営業、技術、製造など個々の組織として実力を持っているが、互いの連携が不足しているために十分な力を発揮できていない印象がある。例えば営業が大きな受注案件を得た際は、製造として十分なバックアップ体制を取るなど、仕事としては全員が同じベクトルに沿って結果を残すことが全体の総合力アップにつながる。
実際の取り組みとしては、組織間において横串を入れるため、各部門間にまたがる会議を定期的に開催しており、現体制を尊重しながら新たな仕組みづくりも進め、両輪によって組織力の向上を図る方策を練っている。プロジェクトチームを組織して、全社的な課題に対しトータルソリューションのノウハウを新たに構築したい。
【現在の課題と、それに対する対応は】
販売面は堅調を維持しているが、原材料が軒並み高騰しており、物流費についても上昇傾向が続いている。自助努力で持ちこたえてはいるものの、努力の限界を迎えた場合は値上げという選択肢もあり、取引先との交渉に入らざるを得ない場面も想定される。
なお人件費に関しては、コストとは違った観点で見定めており、人事制度の変更によって生産現場の待遇改善を図った。一時的にはコストアップとなるが、メンバーのモチベーションと一体感が上がることを期待している。社内のコミュニケーションを高めるため、会社メンバーとの面談の回数を増やし、会社方針の説明などを行った。逆に現場からのリクエストや提案が多く寄せられ、仕事に対する気持ちが前向きに転じているように感じられる。提案制度を導入したが、以前よりも女性からの意見が聞かれるようになり、社内でいいムードが形成されるようになった。今後、これらを経営層が真しに対応していくことが求められる。
【この4月からスタートした新・中期経営計画について】
計画の内容については、定量目標と同時に企業としての中身の進化に軸足を置いている。企業価値を高める方向性を強く出しており、モノづくりを行う上で「サスティナブル」という観点を強く意識している。
ESG、SDGsという重要な課題に対し、当社が取れる選択肢は①「使用する原材料」を環境に良いものに変更していく②「販売した製品」のリサイクルなどへの取り組み③「製品を生産する」際に使用するエネルギーをクリーンエネルギーに変更していく、という三つが可能性が高いと考えており、東拓工業の力量に合ったレベルから積極的に進めていきたい。長瀬産業出身の社長の役割として、両社の協業の推進がある。長瀬産業が持つグローバルなネットワークや各業界、顧客とのコネクション、またR&Dなどの技術開発力、そして異業種ではあるが製造メーカー各社との情報共有を、東拓工業のビジネスモデルにいかに取り込むのかが課題である。逆に、東拓工業の土木・建築におけるネットワークを長瀬グループで有効活用できる可能性もあると感じている。コロナ禍で明らかになった人々の生活基盤である「衣食住」という重要な部分の「住」に関して、長瀬グループで最も近いのは、東拓工業であり、この分野で存在感を発揮したい。
【今後の意気込みと理想とする企業像とは】
これまで取り組んできた「土木、電設、工業」の事業路線を着実に推し進め、各分野のポジションを上げることで、より存在感を放つ企業に成長させていきたい。これは、単に現状路線を踏襲するということではなく、それぞれの分野の市場ニーズに合わせた新製品の開発など、新たな提案を継続的に出し続けることができなければ実現しない。そのためには、営業が市場ニーズをどん欲に集め、技術陣がそれを具体化し、製造がきちんとつくり上げるという、それぞれの力を結集する「創」「作」「売」のベクトルを確実に回さなくてはならない。「誠実に正道を歩む」という言葉があるが、これは「目先の利益だけを追わず、まじめにやるべきことをやる」という精神であり、長瀬産業が180年以上も続いてきた原点の考え方である。ぜひ、東拓の社内にも浸透させたいと思っている。東拓工業は来年創業70周年を迎える。次の5年、10年に向けて、今打つべき手は打っておきたい。生産現場のアナログ↓自動化や、クリーンエネルギーの活用などの先行投資も進め、次の飛躍に向けての準備を進める。