2021年9月25日

【ホース・チューブ・継手特集】十川ゴム
技術面も「温故知新」

過去の革新技術をも再評価

十川ゴムが事業展開しているホース分野の状況は、今期(2022年3月期)の第1四半期~第2四半期におけるゴム・樹脂ホース関係の売上高は前年同期比で10%以上の回復を遂げた。

業界分類別では、自動車産業用は昨年度対比で100%増となり、新型コロナ感染症拡大による影響を受ける以前の一昨年の水準にまで回復。油圧機器産業用、土木建築産業用についても前年同期比40%増、農業・園芸産業用も同30%増と大きく業績を伸ばした。しかしながら、その他の産業用については大きな伸びには至らず、ホース全体としては一昨年の水準には届かなかった。内容については、自動車産業用は復調傾向にはあるものの、今後の見通しとしては半導体不足などの影響による伸び悩みが懸念される。農業・園芸産業用については順調に回復しており、油圧機器産業用、土木建築産業用についても中国向け建機の好調などにより大きな増加を遂げた。

現状での課題としては、ゴムや樹脂だけでなく、金属関係などといった原材料全般にわたって価格が高騰しており、運送費についても上昇が続いていることが挙げられる。国内事情だけではなく、海外での新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うロックダウン、コンテナ不足などといった運送上の問題による納入不能などに対してフォースマジュール(不可抗力による責任免除)を打ち出す原材料メーカーも多い。原材料価格の高騰については、可能な範囲での価格改定率の引き下げ申請や、価格改定時期に対する配慮のお願いなどを行っているが、以前は受け入れられたケースでもほとんど認められず、むしろ価格改定前にさかのぼって実施するという通知を受ける状態にまで陥っている。同社としてはこういった状況に対して、社内努力の継続では賄い切れず、取引先に安定した製品供給を行うためにも価格改定の実施が必要と判断。「値上げに踏み切らざるを得ないという実情をご理解頂いている」(同社営業本部・豊田俊雄取締役本部長)。

同社の製品開発に対する姿勢としては、新しい技術を生み出すだけでなく「温故知新」という方向性を生かした技術開発にも注力。開発当時は時代の流れに乗り切れなかったケースや、時代を先取りし過ぎたことで市場投入が果たせなかった数多くの製品に着目し、そこに埋もれている技術を活用することで、今の時代のニーズにマッチさせた新製品として市場に送り出す。事例としては、海上施設にゴムホースの製造技術を活用した弾性係留索用ゴムロープ(以下、ゴムロープ)がある。同社では、さまざまなホースの製造を行っているが、過去にその製造技術を活用し、ゴムホースの内側にもゴムを詰めてゴムロープにする開発実績があり、それを再評価。通常のゴムホースでは強く引っ張られると伸びて径が細くなり、金具の抜けやホースが破断する。しかしながら、ゴムホースとは異なり、通常は流体が流れるホースの内部をすべてゴムで埋め尽くすことで、引っ張っても内側のゴムが圧縮されることにより反力が生じ、径が細くなりにくい。さらにこの内部に埋め込まれたゴム材には防舷材など高い圧縮強度が求められる用途に実績のある高弾性合成ゴムを採用しており、各層間を強固に接着することによって高い引っ張り強度を発揮する。また、継手との接続強度を確保する目的から、ニップルの挿入穴設計や加締め率を加味した検証により、従来よりも2倍の強度を持ったゴムロープ性能を実現。見た目は高圧ホースながら、これまでに培った材料設計や、モノづくり設計技術を組み合わせた温故知新の技術開発によって、海上施設のゴムロープとして生まれ変わった。

最近では甚大な台風被害が発生しているが、海上施設においても台風による被害は多く、その対策の必要性に迫られている。その一つとして、台風時などに発生する波浪によって海上施設が損壊しないよう、係留索にゴムロープで弾性をもたせる弾性係留索用ゴムロープの有効性の確認をフィールドテストにより進めている。昨年も試験場所を台風が複数回通過したが、波浪時にもゴムロープによって海上施設が波のうねりに追随することから、安心できるといった評価を獲得。引き続きフィールドテストを通じて長期耐久性を確認している。

これまでの常識から新たな常識が生まれる時にこそイノベーションが発現。同社では、温故知新の開発姿勢により、さまざまな産業分野に多くの製品を提供してきた歴史や伝統に甘えることなく、それを活かしながらさらに社会に貢献できる新製品開発を目指す。