日本触媒
抗菌・抗ウイルス酸化グラフェン複合膜
新型コロナウイルス等不活性化
日本触媒(五嶋祐治朗社長)と北海道大学病院歯周・歯内療法科の宮治裕史講師のグループは、新規ナノカーボン材料である酸化グラフェンと抗菌・抗ウイルス剤を組み合わせることによって、水に濡れる環境等でも種々の菌や新型コロナウイルスの不活化効果を発揮する酸化グラフェン複合膜を開発した。
酸化グラフェンはナノカーボン材料の一種。シート構造で、厚さ約1ナノ㍍、幅数マイクロ㍍の大きなアスペクト比(厚みに対する幅の比)を持つ材料。さまざまな用途で有効性が確認されており、幅広い分野で応用が期待されているが工業規模での大量生産は困難であった。日本触媒ではこれまで培ってきた化学品製造における化学反応を安全・安定に制御する技術を駆使して工業化に向けた種々の課題を解決し、量産化技術を確立している。
酸化グラフェンはその形状と多くの酸素官能基を活用して各種基材へ高い付着性を持ち、さまざまな分子、ポリマーなどと強く相互作用することが可能。この特性を生かし、単独では基材への付着性が低い物質であっても酸化グラフェンと複合化させることで基材密着性(耐水性や長期安定性)を向上させることが可能となる。
抗菌・抗ウイルス分野では耐水性が高く、長期に安定な抗菌・抗ウイルス効果を簡便な手法で発揮する技術が求められてきたが、一般的な除菌法や抗菌・抗ウイルス法では抗菌・抗ウイルス効果が持続しない、耐水性が低く、水回りや結露しやすい環境に弱いといった課題を抱えていた。このような課題に対して、日本触媒と宮治講師のグループが開発した、酸化グラフェンと抗菌・抗ウイルス剤(例えば塩化ベンザルコニウム)を複合化した膜は、抗菌・抗ウイルス剤を基材上に定着させ、水に濡れる環境等でも抗菌・抗ウイルス効果を発揮することを確認。これにより、水回りといった耐水性が求められる環境であっても長期に抗菌・抗ウイルス効果を維持することが期待できる。また、酸化グラフェン複合膜はほぼ単層であるため、無色透明であり、各種基材の色味を損なうことがない特長を持っている。
日本触媒と宮治講師のグループでは、抗菌・抗ウイルス性をさらに検証するため、新型コロナウイルス(COVID―19を引き起こすSARS―CoV―2)に対する抗ウイルス評価も実施。この結果、種々の抗菌・抗ウイルス剤と組み合わせることが可能で、ねらいとする菌、ウイルスに対して抗菌・抗ウイルス剤を広く選択できるため、適用できる菌・ウイルス種が広いことが特長。新型コロナウイルス以外にもさまざまな菌・ウイルスに効果があることを確認している。
この無色透明な酸化グラフェン複合膜を利用することで、シンクや風呂場といった水回り環境、結露しやすい窓ガラス、サッシなど、耐水性と抗菌・抗ウイルス性の両立が求められる環境・材料においても色味を損なうことなく、長期に抗菌・抗ウイルス効果を維持させることが期待できる。