2020年11月25日

大阪ゴム工業会
「技術講習会」開催

TOYO TIREのAI活用テーマに

大阪ゴム工業会(清水隆史会長)は11月12日、11月恒例の「技術講習会」を大阪市北区の大阪第一ホテルで開催した。換気対策など、新型コロナウイルス感染症拡大防止に注意を払いながら行われ、講演会後の講師を囲んでの懇親会は中止とした。今回の技術講習会は、TOYO TIREの先行技術開発部CAEグループの狩野康人副グループ長を講師に招き、「TOYO TIREにおけるAI活用」のテーマで行われた。

冒頭、あいさつに立った十川利男副会長は「コロナ禍にあって、今後の先行きも見通せない状況にある。業務形態もその一つでTOYO TIREさんは、タイヤの技術開発においてウェブ中の仮想空間でデータを共有し、技術者がパソコンさえあれば場所を選ばずに業務が進められるという仕事環境を構築されている。私もテレワークを経験したが、いつもと様子が違って手間取ったこともあった。今回の講習会は、この時節に合ったテーマだと思うので、皆さんにもぜひともノウハウとして役立てて頂けたらと思う」と述べた。

TOYO TIREといえば、新タイヤ設計基盤技術〝T―モード〟、ゴム材料開発基盤技術〝ナノバランステクノロジー(NBT)〟といったシミュレーション技術がタイヤの技術開発の基盤となっているが、そのいずれもがAI技術を適用して進化。スーパーコンピューターの能力を借りながら、設計者が仮想モデルをつくり出し、シミュレーション技術を経て、リアルなタイヤの品質へと反映される手順を分かりやすく解説した。

タイヤ開発のワークシートは市場ニーズや要求品質をくみ上げ、商品を企画。プロファイルやパターン、構造などといった既存技術や経験によって培われた基本設計まで進める。ここまではスムーズに進むが、目的に沿った品質や性能を持たせるためには、先進技術ともいえるプラスアルファの要素を加えて目標とする値にまでもっていく過程が不可欠。従来は実際に製品の試作を行い、トライ&エラーを繰り返すことで、目標とする値に近づけていった。工数も膨大で、携わる人員の数で開発競争を競う一面もあったが、同社ではシミュレーション技術の確立によってこの課題を解消。仮想空間において試作や評価を繰り返すことで、タイヤ開発のリードタイムを大幅に短縮した。同社ではNBTによってナノレベルにおいてゴム材料開発の制御(ゴム材料のシミュレーション)を行い、T―モードでタイヤやドライビングのシミュレーションを実施している。AIを用いた設計支援技術を組み込み、タイヤ開発プロセスを進化させた結果、設計者がシミュレーション部門に依頼することなく、自ら扱えるシミュレーションシステムを構築。アイデアを即座に評価できるようになったことから、タイヤ開発のリードタイムが大幅に短縮された。コンピューターの端末から仮想空間に入って作業していることから、実際に研究室にこもって仕事をする必要はなく、同社の技術者は「日常でも5割以上が自宅で業務をこなしている」という。

今後はCASEの到来で、自動車タイヤにも一層の進化に向けた要求が必然。タイヤ開発の流れにおいても、シミュレーション評価自体が複雑化・高度化してくることから時間短縮に向けたシミュレーション技術のさらなる高精度化・高速化が求められてくる。同社でも高機能なスーパーコンピューターの刷新を数年おきに行っているが、昨年、技術専用スーパーコンピューターを導入。空力予測技術、スノー予測技術、構造解析といったシミュレーション基盤技術に加え、設計者によるシミュレーションや機械学習によるタイヤ特徴量抽出といった設計支援技術が飛躍的に高まった。AI技術の活用によって、設計者によるシミュレーション結果を知的財産として蓄積、ビッグデータを基に機械学習を行い、設計要員とタイヤ特性の間の規則やルール、判断基準などを抽出する。基本設計期間の短縮化につながり、設計要因の変更によるタイヤの性能変化を瞬時に予測するほか、目標性能値をインプットしただけで、必要な設計仕様を導き出すことが可能になった。

講師の狩野氏は「AI技術はタイヤ基盤技術以外でも、社内のさまざまな部門で活躍している。今後はゴム材料にも活用し、新材料開発に向けても積極的に活用していきたい」と述べ、技術講習会を締めくくった。