2020年7月25日

【夏季トップインタビュー】十川ゴム
十川利男社長

思い描く姿実現し100周年へ
中国のコロナ禍の影響は軽微

どのような難題が立ちはだかる市場環境においても、その時々の立ち位置においてベストな市場戦略を繰り出し、長い歴史によって培われてきた企業としての強みを前面に進化の道をたどる十川ゴム。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大という猛威にさらされながらも、企業としての次の一歩を踏み出すタイミングを見計らい、そのための新たな布石を打つ。時代の変化は早く、手掛ける業界の変ぼうぶりにも目を見張るものがあるが、それに向き合う企業姿勢は揺るぎない。創業100周年を迎える5年先を見据えて、次の新たな事業展開にますます意欲を燃やす十川利男社長に話を聞いた。

【これまでの業績の推移について】
前期(2020年3月期)の業績については、売上高が前期比3・0%減の140億200万円、経常利益は23・3%減の2億3500万円、当期純利益は9・6%減の1億6000万円となった。昨年の米中貿易摩擦によって経済の雲行きが怪しくなり、10月の消費増税による影響によって景気の低迷が鮮明になり始めた。昨年末辺りでは、半導体産業が活況を取り戻す気配もあり、その他の業種も底堅さをうかがわせていたが、今年に入ってから新型コロナウイルスの感染拡大による影響によって、月を追うごとに一気に深刻な事態へと陥った。前期決算では、2月辺りから新型コロナウイルスによる影響の気配が漂い始めたものの、3月に差し掛かるまでは、これほどの大きなマイナス要因になるとは予想もしなかった。今期の第1四半期に突入してからも事態は悪化の一途をたどり、前年に対して特に自動車産業用分野での著しい落ち込みがあり、前期実績で大きな伸びを見せた医療機器産業用分野も低調だった。新型コロナウイルス感染への警戒感から病院への人々の足が遠のいた状況が背景にある。その結果、第1四半期の業績としては、売上高で前年同期比15%程度のマイナスに見舞われ、利益面でも前年同期比で大きく落ち込んでいる。第2四半期も始まっているが、この想定外の難局を乗り越え、希望としては9月ごろには盛り返し、第3四半期に差し掛かるころには反転攻勢に打って出たい。

【事業分野別での状況は】
前期の品目で見れば、ホース類で前期比4・3%減の60億900万円で、ゴム工業用品類が2・8%減の68億3800万円となった。今期の第1四半期においても、自動車産業用、土木・建設機械産業用、一般機械産業用など、各業界で勢いが衰えている。しかしながら、これから需要に好機が見いだせれば必ずや取り込んでいきたい。ホースアセンブリ、型物を手掛けている中国子会社の紹興十川橡〓については、取り巻く環境は厳しいものの、新型コロナウイルスによる影響についてはわずかなレベルにとどまっている。中国国内においても紹興地区におけるコロナ禍の影響は軽微であり、現状において工場はフル稼働の状況が続いている。

【新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた対応としては】
政府の働き掛けもあって、在宅勤務が少しでもできないか各部門に考えてもらった。緊急事態宣言下では、テレビ会議システムの活用などさまざまな方法も考えながらテレワークを実施した。最大で、工場を除く社内全体の3割程度まで在宅勤務で仕事をこなすよう努力し、時差出勤も採り入れた。今後は一段とデジタル化を進めて仕事に織り込み、紙を使わなくても仕事が回せるような体制をつくらないといけない。オンラインを進化させることで効率化も検討し、今後の新たな可能性を念頭に置いて模索を進めている。ち密さが何よりも重要であり、対面重視の姿勢などといった現場主義を最も大切にしながら、不測の事態に遭遇した場合は難しい面もあるがオンラインでも対応できる業務がないか今後も検討を続けたい。6月からは通常勤務に戻ったが、タブレット端末の配布やノートパソコンの活用の場を広げるなど、コミュニケーションツールの導入を試験的に進めており、今回の在宅勤務の経験も、今後の事業戦略の補強という面では参考になることもあった。

【設備投資について】
前期で14億円の資本を投じて、徳島工場の建屋、さらには設備や機械の新規更新を行った。効率性を最大限に引き出すためにもIoT、ICTなどといった先進の技術を採り入れることも検討し、省力化、効率化の向上に取り組んでいく。環境対応が進んだ設備への切り替えも重要で、この先のコスト削減効果も大きいことが分かった。研究開発用の資本も投じており、新製品として「エコジョーズ専用ドレン排水ガイドシステム」を上市した。エコジョーズ化推進を背景に、集合住宅におけるEJドレン水が雨水と同様の扱いとして排出が可能になったことを受け、集合住宅用のEJドレン排水に役立つシステムとして開発に至った。

【今後の展望に向けては】
新型コロナウイルスによる影響は計り知れず、市況の見通しも難しいことから、今はじっと我慢の時であると考えている。ただし悲観的な方向にばかり目を向けるのではなく、設備投資によって省力化、自動化を推進し、IoTなどの力を借りながら、これからの少子高齢化に対応するための準備の段階であるとも考えている。世の中の変化は早く、いずれは新型コロナウイルスのワクチンも開発され、ウィズコロナの生活習慣も解消されると思う。当社は本年で創業95周年、5年後には100周年という企業としての大きな節目の時を迎える。困難を乗り越え、より良い社会にあって、当社が思い描く姿も実現した状態で100周年のタイミングを祝いたい。