2021年6月15日

アシックス
事業説明会を開催

日米欧でNo.1目指す
スピード感を持って活動

アシックス(廣田康人社長)は6月2日、「アシックス事業説明会」を開催した。神戸市中央区の同社神戸本社に隣接するアシックススポーツミュージアムよりライブ配信されたもので、会場には廣田社長、研究開発分野を代表し、アシックススポーツ工学研究所フューチャークリエーション部の谷口憲彦氏、商品開発分野を代表してアシックス・パフォーマンスランニングフットウエア統括部開発部パフォーマンスランニング開発チームの竹村周平氏、マーケティングを代表してマーケティング統括部の甲田知子氏が出席。今回はイノベーションをテーマに、未来に向けた革新的なテクノロジーとマーケティング全体戦略について説明した。

冒頭、廣田社長が「本日から同社では〝100万人の心を動かす〟と銘打ったプロジェクトを始動。スポーツが心に与える影響についての世界初のライブで行われるリサーチで、スポーツ前後の心の状態を計測し、スポーツが心に与える影響を可視化する。デジタルで簡単に参加できるので皆さんもぜひともチャレンジしてほしい。同時にランキーパーによってバーチャルランシリーズ〝アップリフティング・マインド・ラン〟を開催する。一人でも多くの人が走ること、スポーツに参加することの大切さを感じることができればと願っている」と期待を示した。

続けて事業の取り組み説明に移り、人間の生活におけるスポーツの有益性について解説。新型コロナウイルスの流行後、ランニングは多くの人々に支持されており、新型コロナウイルスの流行前である2019年12月は39%であったのに対し、1年後の20年12月には44%と5%増加した。20年のランニングシューズのマーケットシェアの実績を見ると主要地域である日米欧において、3位以内と高いマーケットシェアを達成。同社の事業方針としては、日本においてはスピードモデルの発売により全体のシェアアップを図る。米国では、引き続きランニング専門店との取り組みを強化。シェアナンバーワンを誇る欧州では、コロナ禍で新たにランニングを始めた顧客層の取り込みに成功しており、このシェアナンバーワンのポジションを維持していく。同社が中長期的に目指すべき姿は、ランニング市場において〝ランニングといえばアシックス〟と言われるブランドとしての確固たる位置付けの獲得。そのために、主要3カ国でマーケットシェアナンバーワンを目指す。すべてのランナーのニーズに対応可能な商品ラインアップを拡充することで、既存顧客だけでなく、若年層と女性へのアプローチも強化していく。

その一方で、中国、インド、南米などの新興国でのビジネス拡大に加え、ランニングエコシステムの構築など、デジタルを活用した消費者へのサービスなども強化。しかしながら、最近のアスリートの中でもトップランナーにおけるアシックスのシェアは厳しい状況にある。オリンピックマラソン大会に見るアシックスの歴史をひも解くと、64年東京大会から08年北京大会まではほぼ毎回メダルを獲得し、長距離=アシックスというイメージが市場に浸透していた。しかし、12年のロンドン大会以降はメダル獲得は実現できていない。最大の理由は、通称〝厚底〟と言われるシューズの登場にある。これらのシューズを履いたアスリートは、数多くの大会で好記録を連発。瞬く間にシェアを奪われた。今年の年始における箱根駅伝では、同社のシューズシェアは0%。苦い思いとともに多くのことも学び、この事態によって同社の気づきが得られたという。マラソンシューズにとって軽量化は重要なファクターであり、薄底のシューズはこの軽量化を実現するための手段。しかし、軽量化できれば薄底である必要性はなくなる。すべてのアスリートには速くなって欲しいと願っており、ベストなソリューションを求めて、徹底的に深掘りする必要があった。コミュニケーションの一層のスピードアップを図り、組織の枠組みを超えた開発、研究、アスリートサポート、マーケティング、法務に至るまで組織横断型のコミュニケーションをリアルタイムでできる仕組みを考えた。これらの気づきから、19年11月に社長直轄組織C―Projectを発足。創業者の鬼塚喜八郎氏の「まず頂上を攻めよ」という言葉の頭文字である「C」を取ったプロジェクト名で、この言葉をモットーにさまざまな部署から若手が集結し、トップアスリートと連動した物、事作りを行っている。直轄、横串型組織のメリットを生かしスピード感を持って活動し、これからも数々のイノベーションにより、アスリートのパフォーマンスを最大化し、スポーツを通して世界の人々の心身の健康に貢献していく。

続いて、スポーツ工学研究所の谷口氏、商品開発のエキスパートである竹村氏が研究から商品開発までの一連の流れを紹介。同社のソリューションは一つではなく、走り方に着目した2タイプのマラソンシューズを投入。それぞれに合わせたパーソナライゼーションの流れをも重視した3月発売のストライド型ランナー用シューズ「メタスピードスカイ」と、ピッチ型ランナー用シューズの「同エッジ」を6月4日に発売。マラソンシューズだけでなく長距離レーシングスパイクも開発しており、競技歴の流れとして、最初はトラック競技、その後マラソンへ転向というものが主流であることから、マラソンシューズを履いてもらうためにはスパイク開発も必要不可欠。これは22年EUGENE世界陸上向けに開発中だったが、アスリートの要望にこたえ、多くの関係者の協力を得ながら東京オリンピック前の近日中限定発売となり、短期間での商品化につなげることができている。アスリート一人ひとりに寄り添ったモノづくりを高いレベルで実現するための取り組みを、これからも行っていく。

最後にマーケティング統括部の甲田氏がマーケティング全体の戦略等について解説。デジタルでのつながりを最大限に活用しながら、購入後から始まる消費者との関係を大切にし、いかに消費者との関係を長期的に維持することができるかがブランドにとって重要になると強調した。