2021年8月20日

横浜ゴム
バイオマス由来のブタジエンで一連のプロセス実証

NEDOらと共同で研究
タイヤ試作も成功

横浜ゴム(山石昌孝社長)は今年6月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(石塚博昭理事長、以下、NEDO)、産業技術総合研究所(石村和彦理事長、以下、産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(北弘志理事長、以下、ADMAT)との共同研究によって、バイオマス(生物資源)から製造されるエタノールであり、再生可能でカーボンニュートラルな燃料や化学原料として注目されているバイオエタノールからブタジエンを大量合成し、従来と同等の性能を持つ自動車用タイヤの試作および一連のプロセスの実証に成功した。ブタジエンは現在、タイヤの主原料である合成ゴムなどの重要な化学原料として石油から生産されているが、バイオマスから生成したブタジエンからタイヤを生産する技術を確立することで、石油への依存度低減によるCO2削減と持続可能な原料調達が促進される。

横浜ゴム、産総研、ADMATはNEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」の委託事業として、超超PJが推進する「計算科学技術」「プロセス技術」「先端計測技術」の三位一体での開発により、バイオエタノールからブタジエンを高速かつ効率的に合成する技術開発に取り組んでいる。2019年には触媒の配合状態や反応条件に関する大量のデータを取得・解析するハイスループットシステム(高度に自動化された方法で短期間に多数の触媒の調製ならびに評価を行い、触媒の開発に必要なデータを迅速に得るシステム)とデータ駆動型学習(ハイスループット実験や計算科学により、目的に応じて創出されるオンデマンドデータを用いた機械学習)、産総研が提唱している触媒化学と情報科学を融合させた学際領域である触媒インフォマティクスの活用によって、当時では世界最高のブタジエンの収率(バイオエタノールから理論上得られる最大ブタジエン量に対する実際に得られたブタジエンの割合)を持つ触媒システムを開発し、さらに生成したブタジエンからブタジエンゴムの合成に成功した。またこの知見を生かして昨年にはより最適な触媒を検討し、19年と比べて1・5倍のブタジエン収率を持つ世界最高の触媒システムの開発に成功している。

今回の成果はこれをさらに進化させたもので、昨年開発した高性能触媒システムを用いて反応システムのスケールアップを行い、ブタジエンの大量生産とそれを原料にしたタイヤ製作までの一連のプロセスの実証を行った。今回の研究ではバイオエタノール処理量を約500倍にした大型触媒反応装置を設計・製作し、バイオエタノールからのブタジエン大量合成を検討。反応条件の最適化や生成したブタジエンの捕集方法の改良により、約200㌔㌘のブタジエンの製造に成功した。さらに、このブタジエンを蒸留精製によって高純度化した後、重合反応によって得られたブタジエンゴムを原料にして自動車用タイヤの試作にも成功した。大型触媒反応装置の設計・製作およびブタジエンの大量合成は産総研が、生成ブタジエンの蒸留による高純度化はADMATが行い、横浜ゴムは高純度ブタジエンの重合によるゴム化およびそれを原料にしたタイヤの試作を担当した。

試作タイヤはグランドツーリングタイヤ「BluEarth(ブルーアース)―GT AE51」の185/60R15サイズ。このタイヤのキャップトレッドとサイドウォールはこれまで、石油由来のゴムで製作されていたが、今回の試作タイヤでは石油由来のゴムをすべてバイオエタノール由来のブタジエンゴムと天然ゴムに変更したため、両部分のゴムは持続可能なゴム材料のみで構成されている。また、試作タイヤは従来の石油由来のゴムを使用したときと同等の材料性能を有している。

タイヤは車の中で唯一路面と接する部分であり、安全性にも重要な役割を担っている。中でもタイヤが路面と接触するキャップトレッドは路面からの衝撃や外傷からタイヤ内部を守るだけでなく、グリップや摩耗の抑制といったタイヤの性能にも大きく寄与し、ブタジエンゴムは摩耗の抑制に貢献する。またサイドウォールは走行時に最も変形が大きな部分のため、柔軟で変形に追随しやすいブタジエンゴムが使用されている。