2021年8月20日

【夏季トップインタビュー】十川ゴム
十川 利男 社長

時代に応じた変革を
需要業界と豊かな未来見据える

2025年の日本国際博覧会(大阪万博)の開催という慶祝ムードの中で、創業100周年という企業としての大きな節目を迎える十川ゴム。昨年からのコロナ禍によるさまざまな試練に立たされながらも、課題への対応を着実に実践し、逆にBCP体制構築にも通ずる経験値として強みに変えてきた。目まぐるしく変わっていく現在の市況にあって、ポートフォリオを変えることなく時代に応じた変革により、需要業界とともに豊かな未来を見据える。社会情勢に伴うさまざまな圧力に屈することなく、常に前向きの姿勢で経営の舵取りを行う十川利男社長に話を聞いた。

【前期の決算(2021年3月期)と現状について】
前期は新型コロナウイルスの感染拡大に振り回され、国内景気は年間を通じて大きく低迷したことから、当社を取り巻く市場環境についても起伏を伴った激しい年度だった。特に緊急事態宣言が発出された第1四半期と第4四半期の不振による影響が大きく、第3四半期以降には回復傾向がうかがえたものの、期待したように市況低迷の収束には至らず、当社の売上高は、前期と比較して10%程度のマイナスとなった。収益面についても同様に、減益となった。いずれの製品分野においても情勢は厳しく、ホース類の売上高は前期と比較して8%程度の減収となり、ゴムホースは住宅設備産業用が増加したものの、自動車産業用、油圧機器産業用、船舶・車両産業用といった分野の需要が伸び悩んだ。樹脂ホースについても、農業・園芸産業用のスプレーホースの売り上げが伸びたものの、他の産業用途向けが芳しくなかった。ゴム工業用品類の売上高は前期比で14%程度の減収となり、型物製品については医療機器産業用の不振による影響を受けた。押出・成型品においては自動車産業用が増加したものの、ガス産業用、船舶・車両産業用が伸び悩み、ゴムシートの売り上げも前期の実績に及ばなかった。SUSフレキシブルホースや、熱膨張材料などといったその他の製品分野についても、前期比3%減にとどまった。

今期の第1四半期と、その後の現状においては、コロナ禍の影響に翻ろうされるばかりではなく、そういった市況を踏まえた上での事業戦略を練り上げることによって業績回復への道筋を付ける。シート類や汎用品は、前期の落ち込みからの立て直しを図り、19年度のレベルには戻ってはいないものの、業績回復に向けての現実感は強みを増している。第1四半期の流れから、後半に向けての市場に明るさがうかがえ、今期は6%程度の売り上げの伸びを見込んでおり、計画としては前期の落ち込み分をこれからの2年間で取り戻したい。

【回復を巡っての思惑と課題は】
自動車産業用がコロナ禍以前の状態に戻ってくる様相を見せている一方で、汎用品市場の厳しさは続いており、全体的な不安定感は払しょくされていない。しかしながら国内の市況全般をふかんしてみると、下期に向けて回復に転じているようなムードが垣間見られる。全国的にワクチン接種が進むと思われる夏以降の回復を見込んでいるが、今期まで慎重な構えで設備投資を抑制してきた当社の事業方針にあって、市況の回復後に求められる受注要求に対し、十分に対応し切れるだけの能力を補完する体制を喫緊に構築する必要がある。人材面については、一時期ほど獲得に困窮する事態は避けられたとしても、省人化に向けてのシステム構築などといった、生産能力や効率化を高めるための取り組みが今後の課題になると見ている。

【中国子会社の紹興十川橡㬵については】
12月期決算で事業を進めている紹興十川橡㬵においては、昨年の1月に新型コロナウイルスの影響によって工場の操業停止を余儀なくされたものの、それ以降は中国におけるコロナ禍からの脱却、現地での景気回復とともに好調な事業展開を継続している。日本から現地工場に振り向けているライン製品も上向き続けており、現地工場での生産品についても前期比で30%増と売り上げを順調に伸ばしている。金型成型品など現地生産品については、地産地消の方針で事業の展開を図っているが、現地での売上高比率が73%から82%へと、方針以上に進んでいる。今期に入ってからも依然として勢いは衰えておらず、上半期である6月までの売上高で前年同期比10%増と好調に業績を伸ばしている。

【働き方改革に向けての進ちょく状況は】
テレワークを含めて、管理部門や営業部門以外でも業務が進められるようデジタル化を着実に進めている。工場など生産部門における遠隔業務は難しいが、現場での事務作業については可能であると見ており、生産スタッフと間接部門をリモートでつなげる取り組みを行っている。これらの施策はBCP体制構築の観点からも重要であると考えており、アイデアを現実に置き換えることで、企業としての足場も堅ろう化する。しかしながら、対面によるコミュニケーションの重要性に対する認識は変わらず、通常時は、対面による業務体制を積極的に推し進めている。

バーチャルやデジタル技術を駆使した方法では、実際に身体を張って臨む業務に及ぶことはなく、実社会においてはコミュニケーション能力の高さが問われる場面は極めて多い。現状での当社の取り組みは緊急事態における対応力の強化であって、非常時における業務遂行のノウハウを身に着ける経験値獲得に過ぎないと考えている。

【健康経営優良法人2021の認定を受けましたが】
従業員の健康管理を経営的な視点でとらえた法人として評価されたもので、これまで本社や工場で実施していた取り組みを、全社的な体制整備としたことや健康に関するさまざまな取り組みが評価の決め手となった。認定は毎年行われ、前年よりも高いレベルでの取り組みが要求されることから、今後も健康に関する活動を高めていかねばならない。

最近では、時勢に応じた制度として、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する支援を実施しており、接種希望者に対して就業時間中の接種を可能とし、接種翌日に副反応による体調不良があった場合に取得できる特別休暇制度の設立なども、健康経営の一環として行っている。

【今後の展開と企業としての展望について】
最近はゴムから樹脂、金属など原材料全体において急速な価格高騰が起こっており、運送費の上昇も止まらない。全社的に徹底した努力を尽くしてきたが、最近では供給面にも支障が生じるレベルにまで追い込まれてきた。そのため7月1日から全品目での値上げをお願いせざるを得なくなった。公正な立場で透明性の高い企業活動の一環として打ち出した結論であり、今後も取引先とともにあらゆる窮地を乗り越えていきたい。製品の開発体制については、当社では特殊用途に向けた受注生産品の販売が占める比率が高く、そこで得られた独自技術を異なる分野の製品に転用することで、新たな付加価値が得られる製品として市場に送り出していく手法を駆使していく。当社としては、取り組む内容の規模にかかわらず、常に新たな変革に目を向けていく。