2022年7月5日

日本ゼオン
複数のAI活用した機能予測技術を開発

材料開発大幅に加速

日本ゼオン(田中公章社長)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(2016~22年度)において、産業技術総合研究所(石村和彦理事長、以下、産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(北弘志代表清算人、以下、ADMAT)とともに、複数の人工知能(AI)を用いることで複雑な構造を持つ材料のデータを処理し、高速・高精度にさまざまな機能を予測する技術を開発した。

今回開発したマルチモーダルAI技術は人間が五感という異なる感覚器によって外部から入ってくる複数の情報を処理、高度な判断を行うように複数のデータを組み合わせて入力と出力の複雑な関係を結び付け、分類や予測したい問題に適用する。母材・添加剤・充てん剤といったさまざまな配合を持つ材料(複雑材料系)に対して、深層学習(ディープラーニング)を適用する新たな技術。画像や分光スペクトルといった異なる複数のデータを計測・統合することによって、従来のAI技術を適用できなかった複雑材料系においてもその特性予測に国内外で初めて成功した。

現在、材料開発のさらなる高度化・高速化に向け、機械学習やディープラーニングなどのAI技術を活用したデータ駆動型の材料開発が活発化。これまでは、単純な化学構造を持つ低分子材料や無機材料に対して、元素や化学結合を元にしたAI技術によって材料が持つ機能が予測されてきたが、多くの材料系は多数の成分を含む複雑材料系であることから、比較的単純な元素や化学結合だけでは機能を予測することが困難であった。物理・化学構造が複雑に変化し、求められる機能も多元的になることから、材料の特長をとらえた画像などといった単独の計測データを用いた従来のAI技術では、予測できる特徴が限定的で狭い範囲でしか適用できないという課題があった。

マルチモーダルAI技術では母材5種、添加剤2種、充てん剤3種の組成によるケースにおいては、1日で約10万条件分の複数の計測データの生成ならびに特性の予測結果の出力が可能になる。開発したAI技術を用いることで、実際に実験に要する時間と比較して2万分の1以下の時間での特性予測が可能となり、膨大な配合条件などから選定・成形加工・評価を行う材料開発において大幅な期間短縮に加え、高度化・高速化につながる。

今回開発した技術では、複数の異なる計測データへ敵対的生成ネットワーク(GAN=Generative Adversarial Networks)を適用。AI技術の一種で、ニューラルネットワークを用いて、複雑なデータが持つ特長を学習し、疑似データとして画像などのデータを生成することができる。今回はGANを拡張させ、対応する配合における材料の物理・化学構造を反映した画像や分光スペクトルといった複数の計測データの生成を実現した。

従来のような単独の計測のみの計測データを用いたAIに対し、複数のAIを用いたモデルでは予測精度が向上。単独の計測からなるAIでは、材料の物理構造や・化学構造の限られた情報しか得られなかったが、複数のAIを用いる技術によって多次元で幅広い情報を獲得、これまで困難であった複雑材料系へのAIの適用実現につながる。獲得できる材料情報が多いことから、特性を高い精度で予測、従来のAI技術に対してより複雑・複合的な材料開発への適用を実現する。

今後は開発した新規マルチモーダルAI技術を元に、幅広い材料系へと適用可能な技術開発に取り組み、高分子複合材料、繊維強化プラスチック、ファインセラミックス、マルチマテリアルといった複雑材料系のマテリアルズ・インフォマティクスおよびプロセス・インフォマティクスを推進。今回の技術をさらに発展させ、複雑な材料系や製造工程の高速・効果的な探索、各組織での専門技術の継承や創出を通じ、日本の産業競争力強化へとつなげていく。