2023年1月10日

新年トップインタビュー
日本ゼオン

新事業創出を加速
進化に向けた歩みを着実に

【2022年を振り返って】
第2四半期(4-9月)の決算では、売上高は前年同期比10・2%増の1974億1700万円となり、中間期としては過去最高を更新することができた。エラストマー素材事業においては、採算性の向上とグローバル展開の強化に取り組み、高機能素材事業については、付加価値の高い新製品の開発や事業拡大への取り組みによって売上高の伸びに貢献した。しかしながら収益面については、急激な円安に加え、ナフサ価格についても前年同期の水準と比較して1・5倍にまで高騰しており、非常に厳しい局面に立たされた。当社では2030年のビジョンとして〝社会の期待と社員の意欲に応える会社〟として活躍する姿を描き出しており、特に力を注いでいる9つのSDGsの目標とリンクさせながら、事業展開に取り組んでいる。2021~2022年度を実行期間として取り組んできた中期経営計画においては、全社戦略として設定した、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現する〝ものづくり〟への転換を推進する展開において2050年を見据えたカーボンニュートラルマスタープランの策定を行った。2030年のCO2排出量を省エネプロセス革新、エネルギー転換によって2019年度比で50%削減するロードマップを描き出し、国内工場においては、購入電力の100%再生可能エネルギー化、カーボンニュートラルLNGへといったエネルギー転換を図っている。昨年7月にはインターナルカーボンプライシング(ICP)の導入を実施し、制度の運用によってCO2排出を考慮した投資意思決定を行うことによって、CO2排出量削減に寄与する設備投資を促進している。10月には、グループ企業であるZeon ChemicalsSingapore社がシェル社との間でS―SBR生産向けサステナブルブタジエン調達に関するMOU(Memorandum of Understanding)締結を行い、シンガポールにおいて、低燃費タイヤ用ゴム原材料の将来に向けたサステナブル化への検討を開始している。

【既存事業の磨き上げに向けては】
高機能樹脂の強化に向けて、水島工場で生産設備増強を実施し、2021年7月に完工したことで、年産4600㌧の能力増強が図られた。高岡工場でも高機能樹脂のリサイクルプラントを立ち上げる計画が進んでおり、2024年8月からの稼働によって年間6000㌧の高機能樹脂の増産が可能となる。電池材料の強化に向けては、海外のZeon Chemicals Asia(ZCA)においてリチウムイオン電池向けバインダーの新生産拠点設立を決定しており、2024年の生産開始を目指して準備を進めている。既存SBU(Strategic Bisiness Unit)の勝ち残りに向けては、水素化ニトリルゴムについては、高岡工場において約10%程度の能力増強を行い、今年の稼働を予定している。海外でも、米国のZeon Chemicalsのテキサス工場の生産能力を約25%増強し、2025年から稼働させる。敦賀工場では、世界初の溶融押出法による光学フィルムの能力増強を行っており、本年10月から稼働させることによって、年産能力5000万平方㍍を上乗せする。世界シェアナンバーワンのリーフアルコールにおいては、水島工場において昨年、増強設備を完工させており、年間生産能力1600㌧にまで引き上げている。

【新規事業の模索に向けては】
重点4分野として、〝CASE・MaaS〟〝医療・ライフサイエンス〟〝情報通信(5G/6G)〟〝省エネルギー〟を定めてリソースを集中投入している。新規事業においては、M&Aや異業種との協業も推し進めており、昨年の2月には生化学分析向けマイクロウェルプレートの販売を行う米国のAurora Microplates社の買収を行い、これを手始めに投資会社Zeon Venturesを米国に設立し、戦略的投資による重点4分野における新規事業創出を加速させた。スタートアップ企業に向けた投資活動を積極的に行っており、カリフォルニアを拠点に活動を着実に推進している。化学専業としては初となる東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)が運営するAOI(Accelerating Open Innovation)1号ファンドにも出資し、アカデミアとの連携・協業を促進させている。医療・ライフサイエンス分野のスタートアップを支援する目的から、8月には筋委縮性側索硬化症の創薬に取り組んでいるベンチャー企業であるJiksak Bioengineering社との資本提携を行い、その一方で、個別化医療の実現で社会に貢献しようとしているNeo―Precision―Therapeutics(NPT)社との資本業務提携も結んだ。重点分野に広く応用可能な素材の開発にも力を注いでおり、「耐熱・耐圧マイクロ中空粒子」を新たに開発し、加えて研究開発品としては初の特別ページを開設することで、積極的な用途探索を行うなど、新規事業創出に向けて並々ならぬ情熱を注いでいる。

【社内における変革と革新への取り組みについては】
昨年4月に、東京都千代田区の東京オフィスをリニューアルし、2030年のビジョンである〝社会の期待と社員の意欲に応える会社〟への取り組みの一環として、その舞台の構築を行った。柔軟な働き方を推進し、社員の能力を最大限に引き出すことのできる環境づくりを目的としており、〝つながり・磨き上げる場〟として活用する。自律的なキャリアデザインによる職場の透明化に着手しており、公募制Diversity Inclusion and Belonging(DI&B=組織の在り方そのもの)プロジェクトを推し進めるなど、新しい概念を採り入れながら、より多くの選択肢を提供することによって目標到達を果たす。社員全体がWell Being(よく生きること)とFreedom(自分らしい人生があること)を享受できる環境の実現を目指しており、選択型福利厚生制度〝カフェテリアプラン〟を設けることによって、会社が用意した福利サービスを、社員が各ライフスタイルに合わせて選ぶことができる、新しい舞台づくりを支援するシステムを打ち出した。社員が働く職場を舞台として自らつくり出すことによって、新たな時代を見据えた業務体制を構築していく。

【今後の見通し、具体的な取り組みや展望については】
世界経済は、インフレの苦境に立たされており、エネルギーや物資面、地政学的にも不透明な状況にあって、今年の見通しを非常に厳しい目線で見ている。しかしながら、困難な問題を抱えていながらも、それをポジティブにとらえられるような企業へと変化を促し、思い描いた結果を導き出せるように進化していきたい。化学業界は大きな変化の真っただ中にあり、事業については、今まで以上に厳しい問題を乗り越え、より大きな結果を出していかなければならない。昨年はさまざまな施策を実施し、中期経営計画の2年間にわたる実行期間において、次に向けた基盤づくりが果たせたという実感を手にしている。結果であるアウトプットを大切にし、数値目標を立てて取り組んできた結果、企業としての進化に向けての歩みを着実に進めている。新規事業を当社の柱に育て上げることを責務として強くとらえており、2023年からスタートする次期中期経営計画は、来年の4月に発表する予定で策定を進めているが、立ち上げた目標に対しては、〝数値の見える化〟によってその状況を確実に把握しながら、投資も交えて達成に向けて一段と力を入れて取り組み、企業価値をさらに高めていきたい。